「もおっ!ヒノエ君なんて知らないっっ!!」

ばんっ、と障子を壊さんばかりの勢いで開けて姿を現したのは白龍の神子、春日望美。戦場では神々しい迄の雰囲気を持っている彼女だが、今はその欠片すら見当たらない。
そして部屋に取り残されて茫然としているのは八葉の一人、天の朱雀のヒノエ(彼のこんな顔は珍しい)。
彼はこんなに若いがあの熊野の別当、藤原湛増その人である。


「いいんですか?」
「・・・・・・居たのか、アンタ」

開け放ったままの障子脇、望美が走り去っの逆から音もなく現われたのはヒノエの対、地の朱雀である武蔵坊弁慶。


「ボクも居るよー?」
「・・・・・・


弁慶の横からひょっこり出てきたのは応龍の化身、
ヒノエは至極厭そうに顔をしかめ、二人を睨むように(実際は睨んでいるのかもしれないが)見上げる(見上げているのは彼が座ってるから)


「喧嘩?珍しいね、ヒノと望美が」
「まあ、まだ若いですからね」
「弁慶爺臭いー」
「何が言いたいんだよ、アンタら」


相変わらずのしかめ面で何時まで続くか分からない的を獲ない会話を断ち切ったのはヒノエ。
弁慶とは顔を見合わせ首を傾げる(実際傾げたのはだけだが)


「慰めようかと思ったんですが?」
「それの何処が慰めだ?」
「・・・若いから?」


苛立ちを珍しくも隠さないヒノエに、普段通りの弁慶に
後者二人はヒノエのそんな珍しい態度が面白くて妙な言葉を選んでいるのだが、ヒノエは一行に気付かない。
其れ程迄に効いたのだろう。愛しの神子姫様から放たれた言の葉が。


「で、何で大嫌い?」
「・・・・・・・・・」
「おや、黙りですか。貴方らしくもない」
「追っ掛けないでいーの?望美だって言いたくて言った訳じゃ無いよ?」

「・・・・・・・・・・・・わかってるよ」
「なら尚更ですね。早く行ってあげて下さい。可憐な花が枯れてしまいますよ」


普段通り、何を考えているか読めない微笑でヒノエを見つめる弁慶。やはり叔父であるからか、いつもよりは幾分か読みやすい。さしずめ、雛を見守る親鳥といった辺りか。


「そうそう。水をあげて下さいな?そーでないと、みぃーんな、枯れちゃうよー」
「・・・アンタは、」
「はい?」
「アンタはいいのかよ」


要点の無い、不可解な言葉。しかし、判る人には判るもので。


「ではヒノエ。僕にあの可憐な花をくれるんですか?」

「――・・・っ、冗談!」

「なら、そんな下らない事、言わないで下さい」

「でも、アンタは、」

「ゆずクンもだよ」


傍観を決め込んでいたが突然口を挟んだ。戦場でしか見せない、真剣な顔で。

「有川も、九郎も、先生も、敦盛クンだって」


「みんな、好きなんだよ?
八葉としてじゃなくて、自分の意志で、心から。
神子を想ってる。慕ってる」

「ボクもスキ。べんけも朔ちゃんも時さんも。
ヒノとおんなじで」

「でも一方通行じゃ、想いは意味が無い。
相手も自分を想ってくれないと」

「想いを通じ合わせられるのは、ボクらの中の、一人。
・・・言いたいこと、わかった?」


が顔を崩し、にへら、と気の抜けた笑いを浮かべれば、隣の弁慶も微笑んでいる。
言われた本人、ヒノエと言えば、普段の顔。別当と言われている彼の顔に戻っている。


「そうだね。他の野郎どもに俺の大切な花はやれないし、枯らせもしないさ」
「うんうん」
「そうですよ、枯らせでもしたら僕が貰いますからね」
「させねぇよ」


これまた普段通りの言葉の応酬。天地の朱雀はちょっぴり黒いオーラを発しながらも顔は笑顔(こんな会話は裏に気付かない方が幸せ)


じゃぁ、とヒノエは望美の後を追い出した。
が望美は朔ちゃんの部屋だよ、と背中に向けて言えば片手をあげ返事をした。



「複雑?」


残った二人。先に言葉を漏らしたのは
的を獲た言葉に苦笑いを浮かべるのは弁慶で。慎重に言葉を選んでいるように見える。


には隠し事は出来ませんしね・・・
嬉しさ半分、寂しさ半分、ですね」
「みたいだねー。すっごい微妙な気配が流れてくるよぅ」
「厭ですか?」
「んーん。仕方ないしねー、失恋しちゃったら」


困り顔、あるいは同情の顔か。何とも言えない顔で弁慶を見上げるを、いつもの微笑で見つめる彼。


「慰めてくれますか?」
「んー・・・お茶でいいなら。お散歩でもいいよー?」


可愛らしい物言いに弁慶はくすくすと声を漏らし笑い、の頭を撫でる。まるで猫を撫でるように。


「うー。猫じゃないよー」
「でも嫌では無いでしょう?」


図星ならしく、ううぅー、と唸っただけでさして抵抗もせずにその行為を甘んじて受けている彼女は本当の猫の様。


「それじゃ、お言葉に甘えて・・・」
「う?」


お茶にしましょう。とぽんぽん、と撫でていた手で頭を軽く叩けばぱぁぁ、と笑顔満開になる可愛らしい少女。


「お茶とお菓子持ってくるっ!」


お菓子ぃ〜♪と意気揚揚と台所に駆けていく。
その背中を眩しいものを見るように目を細めた弁慶。


「正直な所・・・・・・」



(景時の方が羨ましいですよ)







************

弁慶さんは神子よりも化身に傾いていた模様。
で、弁慶は化身の気持ちに気付いているのでした。でも化身は弁慶の気持ちに気付いていないのでした。
変なところで鈍感なのは仕様です(笑)
つーか、ヒノエは何故に望美に「嫌い」って言われたんでしょうね?


2006.5.1 刹霞




戻る




素材提供:NOION