身体が、熱い。

燃えてしまうんじゃないか、って思うほど。

でも、僕は武器を振るう。

・・・あの人を、みんなを、守る為に。









鉄の交わる音、鉄の匂い、悲鳴。
この森を包むのはそんな残酷な気配。
普段の人を暖かく包む気配は消え失せている。

・・・悲しい、苦しい、痛い。

僕に流れてくるのはそんな感情ばかり。
悲しくも無いのに涙が出そう。
そんな感情を押し殺し、ただひたすら武器を振るう。


形勢は不利。それが分からないほど僕も、時さんも愚かではない。
・・・でも今引けば、これ以上の負傷者が出るかもしれない。
でも、今引かないと無意味な犠牲者が増える。
どちらにしても同じこと。

・・・なら僕は。



「梶原様」


「・・・・?」




僕が突然真面目に、というよりも初めてそんな風に彼を呼べば、彼は一瞬目を見張るがそれもすぐに消え、険しい顔となる。




「私がしんがりを務めます。梶原様は兵を連れ、撤退を」
「・・・何を、言っているのか分かってるのかい?」
「ええ。でもこれ以外に方法はありません。大丈夫。私は死にません」



今は生田。
平家と和議を結ぶフリをして、卑怯にも景時は政子様の命により此処を攻めている。
・・・でも普段は此処まで激化しない。僕らは此処まで追い詰められない。

しかし今はそんな事どうでも良い。
みんなが、景時が、無事に撤退できれば。



「・・・っ」
「大丈夫、ね?・・・・時さん。僕を信じて?」


「・・・・・・・わかった。全軍、撤退!速やかに兵を引き、軍を整えろっ!!」



深い溜息を吐いた後、彼はそう言い放ち近くに居た馬に乗る。



「・・・・・・・・・・」
「平気。早く逃げて」



名残惜しそうに、彼は僕を見る。
僕はにこり、と微笑む。少しでも彼が安心できるように。
ぐ、と手綱を持つ手を握り締め、彼は馬を走らせた。

それを見届けてからすぐに僕は残党の処理にあたる。



本当は凄く怖いし辛い。

自分の武器は既に壊れ、手近に倒れていた兵から剣を拝借し戦っている。
・・・それの所為もある。
自分が血にまみれていくのが良く分かる。
棒であれば、それを相手にあてれば五行を奪い取り、動けなくする事が出来る。
でも剣だとあてれば傷がつき、血が溢れる。




熱い。




そう思ったのはいつだったか。
血を見た時か。力の制御出来なくて人を壊した時か。

自分の身体の中が、血が沸騰するんじゃないかってぐらい熱い。
でも剣を振るう手は休めない。


熱い。

もう時さんたちは無事に撤退出来ただろうか?

熱い。

一体どれだけ人を壊したんだろう?

熱い。

熱い。


思考回路が壊れそうだ。





そう思った時、もの凄い殺気が僕を貫く。
その殺気を、僕は知っている。



「平、知盛」


ゆっくりと振り返りながらその名を呟く。
平家の将、平知盛。
どの運命でも、死んでしまう彼。
僕は・・・潔く死ぬ彼を、嫌いではない。



「・・・お前が・・・『龍神の神子』殿か?」

「・・・違う。私は『応龍の化身』
 応龍の化身、だ」



そう言えば訝しげに僕を見る。
・・・何か。何か違和感を感じる。

・・・彼はもう少し身長があった、はず。
なのに、身長差はある、けど。もうちょっと首の角度が・・・。



「『応龍の化身』・・・?
 ・・・もう少し子供、だと聞いていたが・・・」

「・・・ぇ?っな・・・・!!?」



自分の姿を見て驚いた。
元の・・・元の姿に戻っていた。
それで視線が違うのか。



「・・・普段は、子供の姿だよ。
 でも・・・これが僕の本当の姿」


「ほう・・・・」



まるで品定めをするように上から下まで、見る。



「・・・戦うか?平知盛」


「・・・無論」



そう言うが早いか、双剣を巧みに操り僕に切りかかってくる。
それを紙一重でかわし、隙を突さぐる。
・・・でも知盛に隙などある訳無く、已む無く断念、相手の攻撃の合間に剣を凪ぐ。
それも見切られ、弾かれる。
逆にそれを好機と体勢を立て直す前に知盛に突っ込む。
そして鍔迫り合い。


そんな行為をどれだけ続けていたのだろう。

後ろ、みなが退却した森の方から蹄の音。


ちっ、と知盛が舌打ちをしたのが分かった。



っ!!何処だ!?」






「・・・・時、さん」

「余所見・・・するな・・・・化身、殿?」

「っ!?・・・・・うあああっっ!!」



景時の声に気をとられた、無防備な僕に、容赦無い知盛の攻撃。
木に押し付けられ、そして脇腹に激痛が走る。



「俺と・・・・・剣を交える時ぐらい・・・・・・俺だけを、見ろよ・・・」

「ぅぁ、ぐぅっ・・・・・はな、せっ」



口角を吊り上げ、妖艶に笑う知盛。
彼と僕の距離は何故か近くなり、あろう事か知盛は僕の頬に付いた誰のとも分からぬ血を舐める。
ぞく、と肌が粟立つ。この男は何をしたいんだ。



「や、めろっ・・・・は、なせっっ!!」

「くっ・・・・・とんでもないお嬢さんだ・・・・」

「そ、りゃ・・・・どうも、ありが、と」



脇腹に激痛が走るのも承知の上で、知盛に蹴りをかます。
・・・と言っても膝を曲げ、勢いよく振り上げただけだが。
それでも身体を密着させていたのだから案外利く。

知盛から距離をとる。
彼が退くと同時に抜かれた剣から僕の血がぽたりと落ちた。
そして僕の脇腹からは絶えず血が流れ落ちる。
ぜえ、と肩で荒い息をしながらも、知盛からは目をそらさない。


「お嬢さん・・・俺と、来るか?」
「行かない」
「くっ、つれないお言葉だ」
「・・・・早く、戻ったら?還内府殿が・・・・お待ちじゃない?」
「本当に・・・つれないお人だ」


心にも無い事を言い出すな・・・この男は。
にやり、と笑うこの男。今まで見た中で一番生き生きしているように思える。


「じゃぁ、な。死ぬなよ?」
「殺しかけといて・・・何を、言う」
「くく・・・・お前を殺すのは・・・・・・俺だ」
「あ、そ・・・・・・早く消えろ」
「そう・・・・・煽るな」


じゃぁな。そう言ってようやく知盛は消えた。
それと同時にやってきたのは景時。


っ!・・・・・?」

「・・・時さん。そ、ちゃん、ですー」


この運命では初めて見る僕の本当の姿に、彼は戸惑いを隠せない。
にへら、と笑って本人だ、と認識させる。これで分かってくれればいい、けど。


相変わらず知盛に刺された脇腹は猛烈に痛い。


しかし痛さの中に違う何かがあるのに気付く。
また身体中の血が沸騰しそうなぐらい、熱い。


でももう戦わなくても良い。
そう思ったら目の前が真っ白になった。




最後に時さんの声が聞こえた気がした。








僕が目を覚ました時には、既に体は元のミニマムサイズに戻っていて、しかも数日間寝込んでいたらしく、みんなに心配されそして怒られた。














後書きと言う名の懺悔部屋
知盛が神子にではなく化身に興味を持ったら、なお話。
それと一時だけ化身が元の姿に戻りました、なお話。
五行がその時だけ満たされてたんでしょう。
・・・にしても知盛難しい。景時もですが・・・。
しかもど−してこうもグロくなるんでしょう?
・・・不思議だ。


2006,3,27  刹霞




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