すーはー、と深呼吸。
…うん、もう大丈夫。

「べんけ、」

くいくいと弁慶の黒い衣を引けば、優しい顔でボクを見る。

「落ち着きましたか?」
「ん、ごめんね?びっくりしたでしょ」

柔らかく首を横に振る。

「まぁ、少し驚きましたが…も人の子ですから」

弁慶はそう言ってにこ、と笑う。
ボクは少しだけ顔をしかめる。弁慶にバレない程度に、本当に少し。

人の子ではあるけど、生まれた世界は違う。
人の子ではあるけど、人ならざる力を持っている。

…そんな自分を“人間”のカテゴリーに入れてもいいのだろうか?

応、否、どちらとも言えない。
それなら考えるのは…やめよう。
答えなんて出やしない。

ボクはどんなになってもボクなんだから。

「なんか、今までが人じゃないようないーかたー」

にま、と意地悪そうに笑ってみせる。
弁慶は困った顔をして見せた。

「そんなつもりで言った訳じゃ無いですよ?
しかし、そう聞こえてしまったなら謝ります、すみません」
「んーん、平気」

冗談だよー?と普通に笑えば、弁慶も笑う。
…端から見ると怖い会話なのかも知れない。ほらあれだ、
狸と狐の化かし合い。

…どっちが狸だろう?ボクは狸嫌かもー。

そんなくだらない事を考えてたら、弁慶が兵に呼ばれた。九朗の代わりらしい。
ひょこ、と椅子から降りて彼らの後をついていく。
弁慶も兵士も苦笑しているが、咎めることはしなかった。九朗だったら絶対怒るのにね。


********************


話を要約すると、
『木曽軍全滅』
『木曽軍に修羅がいた』
『平家が怨霊をつれてきた』
『朔ちゃん行方不明』
だそうだ。

平家の方には、怨霊を調伏出来る時さんが向かい、九朗は散らばった源氏の兵を集めなが らこちらに向かってきているらしい。

「なら、ボクは朔ちゃん捜してくる」
「駄目です」

はーいと手を挙げ提案する。
しかし考えるふりもなく却下をくらう。
ぶ、と誰かが吹き出した。…失礼な。

「人捜すの得意だよー?」
「迷わず僕や九朗、景時の所に帰ってこれますか?」
「…む、」

気配を捜せば辿り着けない事もない。
でもそれはとても疲れる。ましてや陰の気が溜まる戦場だと、必要以上に疲れる。

さらに迷子体質らしく、気付くと居ない事が多いと言われた。
自分が気になったモノを追いかけてしまう癖のせいらしい。
なので、約束の時間はよっぽどの事じゃない限り守らない。

決して方向音痴な訳ではない(しかしほとんどの人は方向音痴だと言う)

「む〜〜」
「駄目ですよ?僕と一緒に来て下さい」

絶対帰ってくる、と言えないのを知ってか知らずか、弁慶はさっさと決を下して兵たちに伝えた。
こうなったら従わずにはいられない。
九朗が居ない今、最高責任者は彼なのだから。



********************


(弁慶と一緒にいて正解だぁ…)

彼に横抱きにされ、肩に顔を埋めながらは思った。
陰の気の強さに少女は耐えきれず、歩けなくなってしまったのだ。

陰の気がどんなに強くても、普段ならこのような事態にはならない。

(朔ちゃん、居ないからかな…)

黒龍の神子が居なくなっただけでこの状態。
化身たる自分が何というざまか。

少女にしては珍しく自嘲の笑みを漏らす。

「…、辛いですか?」

息遣いを感じたのか、弁慶が少し首をこちらに向ける。
声も出せない状況なので、ふる、と首を横に振る。
…うまく振れていたかはわからないが、彼には伝わったらしく抱く力を強くする。

「寝て下さい、まだ暫くかかりますから」

言葉に甘え、小さく頷き瞳を閉じた。


********************


…どこだろ、ここ。

自分が初めに居た場所じゃないのは確か。

暖かくて、心地良い。

でも、

悲しくて、辛い。


ざぁっ、と荒い川のように誰かの記憶が流れ出す。



どうして…!この手を離したくないと思ってしまうんだ…っ!



最後に、あなたの顔を見れて、、僕は、幸せ者です、ね。


オレも…守りたいよ。キミの事。


何度、時を越えればお前を救えるのだ…。



お前が俺の…敵、なのか…?


オレは…どれか一つ、なんて選べない。



あなたは何もわかってないっ!



お願いだ…私を…浄化して、くれ、


帰って、帰ってきて、、!こくりゅうッ!



…あなたは、生きて…



私は…時を越える。
みんなを…守る為に!




…それが、あなたの願いだね?
白き龍の神子、あなたの。


(叶えるよ)

それはボクの願いでもあるから。




2006,11,22 刹霞



戻る


素材提供:NOION